筋トレでトラブル開発筋トレでトラブル開発

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筋トレで怪我をした話。痛みが教えてくれたこと、すべて書く

「少しくらい大丈夫」——その慢心が、3ヶ月のブランクを生んだ。怪我をしてはじめてわかる、身体との向き合い方について


あの日、ベンチプレスで何かが弾けた

それは平日の夜、仕事終わりにジムへ向かったいつもの火曜日だった。その週はなんとなく気分が乗っていて、重量を少し上げてみようという気になっていた。普段のトレーニングでは85kgをメインセットに据えているのだが、その日は「90kgでも行けそうだな」という謎の自信に溢れていた。

今思えば、フォームも怪しかったし、アップも十分ではなかった。ウォームアップは60kgで10回、70kgで5回。それだけだ。プレートを追加したときの高揚感はよく覚えている。バーをラックから外し、ゆっくり胸へ降ろしていく。1回目は問題なかった。2回目も通過した。そして3回目の押し上げの途中、左の肩口から「バキッ」という感覚があった。音ではない、感覚だ。衝撃というより、何かが「ずれた」ような感じ。

バーをラックに戻し、しばらくそのまま天井を見ていた。痛みはすぐには来なかった。「あれ、大丈夫かも」と思った。立ち上がって肩を回してみると、鈍い違和感がある。でも歩けるし、腕も上がる。

「これくらい平気だろう」——それが最初の判断ミスだった。そのまま残りのメニューを全部こなしてしまった。胸はもうやめたが、背中・脚・腕とフルでトレーニングを続けた。今となっては、あの夜の自分を止めたくて仕方がない。

家に帰って風呂に入ったとき、お湯が肩に当たるとじわじわと痛みが広がってきた。腕を後ろに回そうとすると、鋭い痛みが走った。そこでやっと「まずいことになったかもしれない」と実感した。


翌日から始まる、痛みとの長い交渉

翌朝、目が覚めると左肩が重く、上腕の外側にじんとした鈍痛があった。着替えるのが地味につらい。シャツを頭から被るとき、左腕を上げる瞬間に「あっ」となる。そういう種類の痛みだ。骨折のような激烈なものではなく、日常動作のあちこちに潜んでいる、小さな地雷のような痛み。

仕事柄、デスクワーク中心なので業務への影響は限定的だったが、キーボードを打つ姿勢でも肩がすぼまる感覚があって集中できなかった。夜になるとジムに行きたい衝動に駆られるが、さすがに自重して様子を見ることにした。

受傷後の経過をまとめるとこうなる。

受傷翌日 起床時から肩の違和感が顕著。着替えや荷物の持ち運びで痛みあり。それでも「筋肉痛かもしれない」と楽観視してしまう。

3日後 痛みが引かないどころか、夜間に疼く感覚が出てきた。横向きに寝るのが辛くなり、ようやく接骨院へ行くことを決意。

5日後 接骨院にて診察。「肩峰下インピンジメント症候群の疑いあり、回旋筋腱板に軽度の炎症」との見立て。安静と電気治療を開始。

2週間後 日常動作の痛みはほぼ消える。だが「もう大丈夫」と感じて軽くダンベルを持ってしまい、翌日に再び悪化。完全な大失敗。

1ヶ月後 整形外科でMRI撮影。腱板に軽度の炎症反応が確認される。「3〜4ヶ月はプレスを禁止」と医師に告げられ、絶望する。

3ヶ月後 リハビリを経て、ようやく軽負荷でのトレーニングを再開。机上の空論だった「フォームの重要性」をようやく腹で理解し始める。


なぜ怪我をしたのか。本当の原因を探る旅

安静にして寝ている間、暇を持て余してひたすら筋トレの怪我について調べた。ベンチプレスでの肩のトラブルは非常に多く、特に「肩峰下インピンジメント」「SLAP損傷」「大胸筋断裂」などがメジャーな怪我として挙がってくる。自分の場合は比較的軽度だったが、それでも三ヶ月以上の戦線離脱を余儀なくされた。

接骨院の先生と話す中で、自分の怪我の「本当の原因」が少しずつ見えてきた。単純に重量を上げすぎたというだけでなく、長年積み重ねてきたフォームの癖、ウォームアップ不足、そして疲労の蓄積という複合的な問題があったようだ。

先生からはこう言われた。

「ベンチプレスで肩を痛める人の多くは、バーを胸に降ろすとき肘が過度に開いています。肘が肩のラインより外に出ると、肩関節に大きなストレスがかかります。あなたの場合もそれが顕著でした。」

言われてみれば、思い当たる節しかなかった。胸に「ストレッチ感」を感じようとするあまり、肘をどんどん外に張り出す癖がついていた。YouTubeで海外のビルダーが「肩甲骨を寄せて沈め、肘の角度は45〜75度」と説明しているのは知っていたが、いざ重い重量を持つと意識が吹き飛んでいた。

ウォームアップの問題も大きかった。仕事で疲れている夜、早くメインセットをこなしたくてウォームアップを省略するのが常態化していた。冬場は特に筋肉が硬く、十分な準備なしにいきなり高重量を扱うのは自殺行為だったのだ。

もう一つ気づいたのは、「痛みのシグナルを無視していた」という事実だ。振り返れば、怪我の数週間前から、ベンチプレス後に肩が妙に重い感じがしていた。「筋肉痛だろう」と済ませていたが、あれはおそらく炎症の前兆だった。身体はちゃんと教えてくれていたのに、わたしが聞く耳を持っていなかった。

身体は正直だ。黙って耐えているようで、ちゃんと悲鳴を上げていた。ただわたしが、聞いていなかっただけだ。


3ヶ月の休止期間、何を考えていたか

筋トレができない3ヶ月間は、想像以上に精神的にきつかった。別に趣味が筋トレしかないわけではないのだが、平日夜のルーティンが消えると生活のリズムが崩れた。ジムに行けない焦燥感。鏡を見るたびに「筋肉が落ちた気がする」という不安。ベンチの重量がゼロに戻るんじゃないかという恐怖。

実際には、安静にしながらも下半身のトレーニング(スクワット、レッグプレス)や有酸素運動は続けていたので、体力が極端に落ちることはなかった。だが上半身、特に胸・肩・三頭の筋肉は明らかに小さくなった。3年かけて作ってきたものが、2ヶ月あまりで目に見えて萎んでいく感覚は、かなりメンタルにくる。

しかしこの期間、本当に良かったと思うことが一つある。それは「基礎を勉強し直す時間を得た」ことだ。身体を動かせないぶん、解剖学・フォームの理論・栄養学・回復のメカニズムについて、これまでになくじっくりと本や論文を読んだ。結果として、怪我をする前よりもずっと筋トレへの理解が深まった。

怪我は損失だけではなかった。強制的な「立ち止まる時間」を得たことで、「なんとなく続けていた習慣」を「意味のある実践」に作り変えるきっかけになった。この視点の転換は、怪我がなければ多分一生しなかったと思う。

また、怪我の苦しさを通じて、改めて「自分がなぜ筋トレをしているのか」を問い直すことができた。最初は純粋に身体を変えたくて始めたのに、いつの間にか重量の数字を追いかけることが目的になっていた。「ベンチ100kgを挙げた自分」という虚像を作るためにトレーニングしていたかもしれない。怪我をして数字が全部リセットされたとき、それに気づいた。


復帰後に変えたことーフォーム・ウォームアップ・マインドセット

復帰後のトレーニングは、まるで初心者に戻ったようだった。ベンチプレスは40kgからスタートした。正直、最初は恥ずかしかった。ジムでいつも見かける人たちに「あいつ急に軽くなった」と思われていないかと余計なことを気にしていた。でも1週間もすれば、そんな感情はどこかへ消えた。

フォームを根本から見直し、具体的に変えたことは以下のとおりだ。

肘の角度を修正した バーを降ろすとき、肘を肩より約45〜60度内側に保つよう意識する。最初は違和感があったが、2週間ほどで慣れた。胸のストレッチ感は少し減るが、肩への負担が劇的に下がった。

肩甲骨の使い方を徹底した バーを持つ前に「寄せて、下げる」を意識的に行い、その状態をセット中ずっと維持する練習をした。肩甲骨が安定すると肩への不必要なストレスが消える。

ウォームアップを再設計した 有酸素5分に加え、バンドを使った肩の内旋・外旋エクササイズを5分行うようにした。ウォームアップセットも60%・75%・85%と3段階を踏む。これだけで違和感が出る頻度がほぼゼロになった。

重量の追い方を変えた 毎回重量を上げようとするのをやめた。同じ重量でも「質の高いレップ数」を増やすことを優先する。フォームが崩れたらセット終了というルールを自分に課した。

痛みへの向き合い方を変えた 少しでも違和感を感じたら、その日はそのメニューを中止する。「もったいない」という感情より「身体を守る」ことを優先するよう、マインドセットを切り替えた。これが一番難しかったが、一番大切な変化だったと思っている。


怪我から学んだこと。3年目の自分へ伝えたいこと

あれから半年以上が経った。今の肩の状態は完全ではないが、日常生活での痛みはほとんどなく、トレーニングも問題なく続けられている。ベンチプレスは80kgまで戻ってきた。怪我前の水準に戻るにはもう少し時間がかかりそうだが、焦りはない。不思議なくらい、焦りがない。

あの怪我は、間違いなく自分のトレーニング人生における「転換点」だった。痛みと3ヶ月のブランクという大きな代償を払ったが、それと引き換えに身体の使い方・聞き方・尊重の仕方を学んだ。怪我をしなければ、きっと今でも「重さだけを追いかける筋トレ」を続けていたと思う。

怪我を通じて学んだことを、最後にまとめておく。

① 身体の違和感は「声」だと思うようになった 「少し痛い」「なんか変」というシグナルを無視しないこと。それは身体があなたに送っている最初の警告だ。怪我が大きくなってからでは遅い。

② ウォームアップはトレーニングの一部だ 時間がなければメインセットを削れ。ウォームアップを削ることだけは、絶対にしてはいけない。15分の準備が、3ヶ月の回復期間を防ぐ。

③ 数字はあくまで「指標」であって「目的」ではない 重量の記録を更新し続けることが目的になると、フォームや体調を無視して追いかけてしまう。自分が何のためにトレーニングをしているかを、定期的に問い直すことが大事だ。

④ 休息と回復もトレーニングだ 筋肉は休んでいる間に育つ、という言葉は本当だ。怪我をして初めて、「動かさないこと」の価値を実感した。疲れたら休む。それだけで怪我のリスクは大幅に下がる。

⑤ 怪我をしたら即医療機関へ 「様子を見る」で悪化させたのは完全に自業自得だった。少しでも「おかしい」と感じたら、接骨院・整形外科へ行くこと。早期対処が回復期間を劇的に短縮する。


もし今まさに「ちょっと違和感あるけど大丈夫かな」と感じながらジムに通っている人がいたら、どうかその感覚を大切にしてほしい。わたしのような3ヶ月のロスを経験してほしくない。自分の身体は、お金と時間をかけて作ってきた唯一無二の資産だ。数字の自己満足のために壊すには、あまりにも惜しい。

痛みは敵ではなかった。ただ、正直すぎるほど正直な、身体からのメッセージだった。そのメッセージを受け取れるようになって初めて、本当の意味でのトレーニングが始まった気がしている。

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